1: 2018/10/11(木) 22:02:25.28 ID:CAP_USER
〈質問〉
漢字にも方言のような地域による違いがあると聞きました。具体的にどのようなものがあるでしょうか。
〈解答〉
■見付かる地域差
地域性を帯びた文字を方言文字あるいは地域文字,それが漢字であれば方言漢字とも呼びます。中国は国土が広く,方言差も激しいため,古くから各地で方言漢字が作られ,用いられてきました。
日本列島では,北海道から沖縄まで各地に存在しています。奈良時代以前より,金石文,木簡,文書や書籍では使用漢字に地域による変異が現れ,とくに近世以降,文芸や固有名詞の表記などに多数出現します。
近世から言及がなされ始め,近代以降は柳田国男,永野賢,柴田武,見坊豪紀,鏡味明克ほかがそれぞれの立場から概念と実例を提示してきました。
※墹之上(ままのうえ) 2018.1.2 静岡県伊豆の国市にて撮影
https://kotobaken.jp/wp-content/uploads/2018/09/qa70_01.jpg
■実例としては
字(字種)としては,東北の「萢」(やち)「轌」(そり),関東の「圷」(あくつ),京都の「椥」(なぎ),中国地方の「嵶」「垰」「乢」(たお,たわ,とう),九州の「椨」(たぶ 旁が符,鹿,虫などの異体字もある)などが挙げられます。「閖上」など宮城の地名に使われる「閖」(ゆり)は,江戸時代の藩主による造字という伝承に対し,大水・水害という字義・用法がより古くにあったことが指摘できます。国字,国訓の一種に分類され,造字の方法は,六書で言うと会意文字が多いのですが,対馬の「𨺉」(さい)のように形声文字も見られます。
名古屋の「杁中」(いりなか)のように駅名では当用漢字表にないからといって仮名表記にされたケースがあります。また,岡山の「穝」(さい)のようにJIS第2水準に採用されそこなった結果,誤植されることが増えたケースのほか,違う地名に変更されたケースもあります。
※杁中(いりなか) 2017.12.16 愛知県名古屋市にて撮影
https://kotobaken.jp/wp-content/uploads/2018/09/qa70_03.jpg
■豊かな特色
中世以降の合字「袰」(ほろ・いや)は,「褜」(えな・いや)とともに東北と九州で地名や姓・人名に残り,周圏分布を呈します。九州では「やん」という語形が訓読みとなっているケースもあります。とくに人名に用いられる場合は,新生児に絡まるなどした胎盤による命名です。袈裟(けさ)と呼ぶ地域もあったため,袈裟の異名「福田衣」からと考えられる合字「畩」(けさ)を人名に当てるケースも薩摩で江戸時代から見られ,地名や姓にも用いられています。
※褜川(いやがわ) 2017.11.26 熊本県宇城市にて撮影
https://kotobaken.jp/wp-content/uploads/2018/09/qa70_02.jpg
隅田川を指す「濹」(ボク)は,近世の漢学者の造字ですが,永井荷風が書名に用いたことで全国的に認知されるに至ります。頼山陽は淀川に「氵奠(1字)」という字を作りました(個人文字であり,地域文字でもあります)。現代でも,日本に暮らす中国人の和平氏が神田川を「氵神(1字)」で表すような例が生まれています。
■多彩な使われ方
漢字の「隈」は大隈のように地名や姓で九州に多く,「辻」は地名や姓のほか,今なお普通名詞として近畿では根強く使われています。人名(下の名前)では神奈川や奈良で県名から取って「奈」を用いるケースが多いのです。
固有名詞以外では,エスカレーターなどに見られる「非常停止ボタン」の表示に用いられている「釦」(ボタン)は,近畿地方では使用がまれとなりました。漢字で64画もある「𪚥」(龍が四つ)は,和歌山の旧・龍神村(現・田辺市龍神村)辺りの俚言りげんである「てち」(すごい,勢いがよいという意味)に当てるようになっています。
https://kotobaken.jp/qa/yokuaru/qa-70/
https://kotobaken.jp/wp-content/uploads/2018/09/qa70_05.png
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漢字にも方言のような地域による違いがあると聞きました。具体的にどのようなものがあるでしょうか。
〈解答〉
■見付かる地域差
地域性を帯びた文字を方言文字あるいは地域文字,それが漢字であれば方言漢字とも呼びます。中国は国土が広く,方言差も激しいため,古くから各地で方言漢字が作られ,用いられてきました。
日本列島では,北海道から沖縄まで各地に存在しています。奈良時代以前より,金石文,木簡,文書や書籍では使用漢字に地域による変異が現れ,とくに近世以降,文芸や固有名詞の表記などに多数出現します。
近世から言及がなされ始め,近代以降は柳田国男,永野賢,柴田武,見坊豪紀,鏡味明克ほかがそれぞれの立場から概念と実例を提示してきました。
※墹之上(ままのうえ) 2018.1.2 静岡県伊豆の国市にて撮影
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■実例としては
字(字種)としては,東北の「萢」(やち)「轌」(そり),関東の「圷」(あくつ),京都の「椥」(なぎ),中国地方の「嵶」「垰」「乢」(たお,たわ,とう),九州の「椨」(たぶ 旁が符,鹿,虫などの異体字もある)などが挙げられます。「閖上」など宮城の地名に使われる「閖」(ゆり)は,江戸時代の藩主による造字という伝承に対し,大水・水害という字義・用法がより古くにあったことが指摘できます。国字,国訓の一種に分類され,造字の方法は,六書で言うと会意文字が多いのですが,対馬の「𨺉」(さい)のように形声文字も見られます。
名古屋の「杁中」(いりなか)のように駅名では当用漢字表にないからといって仮名表記にされたケースがあります。また,岡山の「穝」(さい)のようにJIS第2水準に採用されそこなった結果,誤植されることが増えたケースのほか,違う地名に変更されたケースもあります。
※杁中(いりなか) 2017.12.16 愛知県名古屋市にて撮影
https://kotobaken.jp/wp-content/uploads/2018/09/qa70_03.jpg
■豊かな特色
中世以降の合字「袰」(ほろ・いや)は,「褜」(えな・いや)とともに東北と九州で地名や姓・人名に残り,周圏分布を呈します。九州では「やん」という語形が訓読みとなっているケースもあります。とくに人名に用いられる場合は,新生児に絡まるなどした胎盤による命名です。袈裟(けさ)と呼ぶ地域もあったため,袈裟の異名「福田衣」からと考えられる合字「畩」(けさ)を人名に当てるケースも薩摩で江戸時代から見られ,地名や姓にも用いられています。
※褜川(いやがわ) 2017.11.26 熊本県宇城市にて撮影
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隅田川を指す「濹」(ボク)は,近世の漢学者の造字ですが,永井荷風が書名に用いたことで全国的に認知されるに至ります。頼山陽は淀川に「氵奠(1字)」という字を作りました(個人文字であり,地域文字でもあります)。現代でも,日本に暮らす中国人の和平氏が神田川を「氵神(1字)」で表すような例が生まれています。
■多彩な使われ方
漢字の「隈」は大隈のように地名や姓で九州に多く,「辻」は地名や姓のほか,今なお普通名詞として近畿では根強く使われています。人名(下の名前)では神奈川や奈良で県名から取って「奈」を用いるケースが多いのです。
固有名詞以外では,エスカレーターなどに見られる「非常停止ボタン」の表示に用いられている「釦」(ボタン)は,近畿地方では使用がまれとなりました。漢字で64画もある「𪚥」(龍が四つ)は,和歌山の旧・龍神村(現・田辺市龍神村)辺りの俚言りげんである「てち」(すごい,勢いがよいという意味)に当てるようになっています。
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引用元: ・【言語学】漢字にも方言のような地域による違いがありますか/ことばの疑問[10/09]
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